飢えた虎に我が身を食わせた話

 ある日お釈迦様が弟子の阿難を連れて托鉢をしていた時の事です。その時、一人の老母がお釈迦様の前にひれ伏して「今、刑場で処刑されようとしている二人の息子の命をどうかお助け下さい」と懇願しました。聞くところによると、二人の息子が飢えにせめられて盗みを重ねた結果、死刑を宣告されたと言います。我が子の命を救おうとする熱意に心を打たれたお釈迦様は、王の所へ出向き二人の命乞いをして、二人は救われました。感激した母子三人は弟子となりお釈迦様の教えを聞いた結果、ともに修行を完成して阿羅漢と言う位に到達しました。
この事を讃嘆した阿難に対してお釈迦様は「これは過去世からの因縁である。昔、マハーラトナと言う王があり、三人の王子がいた。ある日、三人の王子達は林の中で遊んでいた。その林の中に、二頭の子を連れた母虎が棲んでいて、長い間、獲物にありつけなかったので、母虎は飢えに責められて二頭の子の虎を食おうとしていました。三人の王子のうち二人の兄王子は逃げ去ろうとしましたが、末のマハーサットヴァ王子は、「永い輪廻転生の間に、私は無駄に命を捨てた事が限りなくある。それは貪欲のため、或は怒りのため、或は愚痴のためであって、尊い教えのためであった事は一度もない。尊い教えのために身を捧げる絶好の機会だ」と考え、虎の前に我が身を投げ出しました。飢えた母虎は、マハーサットヴァ王子の体に食いつき、二頭の子虎は命を救われたのでした。末の王子が虎に食われた事を知った父王と王妃は林へ行きマハーサットヴァ王子の骸骨を見た二人は悲しみの余り気絶しました。我が身を惜しまず虎を救った功徳によって兜率天と言う最高浄土世界に往生できた王子は、父母の前に姿を現わし、「父王よ、私は我が身を捨てて飢えた虎を救った功徳によって兜率天に生まれました。存在するものは必ず無くなり、生あるものには決まって死が訪れます。これが生きとし生けるもののさだめなのです。」と語った。お釈迦様は、阿難尊者に、「その時の父王とは、今の私の父であり王妃とは、私を生んでくれた母である。長男の王子は弥勒。次男は仏弟子のヴァスミトラ。末のマハーサットヴァ王子は私自身であった。虎の母は今の老母。二頭の子虎は今の二人の息子である。私は前世においても二人を救い、今また二人を救ったのである。
このお話は、前世のお釈迦様の功徳を説く代表的な捨身供養の物語です

2015年11月01日