兜率天(とそつてん)より娑婆世界に降り立つ決心をしたお釈迦様

 菩薩(仏になろうと道を行く者)と言う位であった前世のお釈迦様は仏陀となる前に、過去世から無数の生涯のあいだに限りない自己犠牲によって、計り知れない功徳を積んだ結果、兜率天(最高浄土世界)に生まれ変わる事が出来たのです。今度は、尊い教えで生きとし生けるものの全てを救う為に、地上に下る時機を待っていた時の事でした。やがて天上界で心地よい音楽が奏でられ、神々は菩薩がいよいよ地上に降り立つ時が来た事を知らせ、菩薩は自分の宮殿を出て神々の集まる集会堂に行き正面の座に着きました。続いて無数の他の菩薩達も席に着きました。そこで、お釈迦様となる菩薩は地上に降りる時機と大陸と国と家柄等について観察していました。時機とは、人間社会が理想的で完全な状態であると宗教を求める心は起こらず、反対にあまり堕落した場合にも宗教を求める余裕が無いので、仏陀の教えを必要とする好適の時機を選ばなければならないのです。そこで、色々と協議した結果、閻浮提と呼ばれるインドを中心とした大陸がもっとも相応しいとされ家柄は、王族が優勢であると言う事になりました。神々は、次に父となるのはどこの国王が良いか相談しましたが相応しい国王は見つかりませんでした。そこで改めて条件をたずねると菩薩は、国王については六十四、母となるべき女性については三十二の条件を示しました。これを聞いた神々は、大国以外の小さな国々まで探した結果、釈迦族と言う小さな国の国王である浄飯王と摩耶妃が良いと言う事になりました。そこで、やがてお釈迦様となる菩薩は、自分の後任として弥勒菩薩を指名し、神々に別れを告げて地上に降りる決心をしました。弥勒菩薩は兜率天で神々の為に法を説き、やがて釈迦牟尼のあとをついで地上に下って仏陀となる日を待つ事になったのです。菩薩は、いよいよ兜率天から降り、古くからのしきたりによって六つの牙を持つ白象に変化して、摩耶妃の右脇から胎内に入りました。摩耶妃は、その出来事を夢に見ていて菩薩を胎内に宿してからは一切の心の迷いや苦しみを持つ事なく、他人に対する思いやりはますます深くなりました。それから十ヶ月、カピラ城のいたる所に不思議な前兆がいくつもあらわれて、摩耶妃は菩薩が誕生する時が来た事を知ったのです。ある日、摩耶妃がルンビニー園と言う場所に散歩に出かけた時、一本の樹の枝に手をかけた瞬間、十ヶ月のあいだ胎内にいた菩薩は母の右脇から生まれたのでした。

2015年11月01日